構成するのは「バラ色の人生(La vie en rose)」「愛の讃歌(Hymne à l'amour)」「水に流して(Non, je ne regrette rien)」。振付を担当したのは、マリー=フランス・デュブレイユである。
このプログラムは、単に有名なシャンソンを集めたものではない。2014年ソチ五輪で憧れの鈴木明子が滑った「愛の讃歌」を、自身の引退シーズンに演じたいという、坂本自身の長年の願いから生まれた。2026年3月の世界選手権で現役最後の演技を終え、5月には正式に引退を発表している。
【2025-26シーズン最新】坂本花織のフリー曲「愛の讃歌」は3曲構成!

坂本花織の2025-26シーズンのフリースケーティング(FS)は、プログラム名こそ「愛の讃歌」だが、実際には3つのシャンソンを組み合わせた作品だ。
国際スケート連盟(ISU)の選手プロフィールにも、3曲それぞれが使用曲として登録されている。フジテレビの選手紹介でも、フリーの曲名は「愛の賛歌」、振付師はマリー=フランス・デュブレイユと記載されている。
3曲の順番と日本語タイトル| 曲順 | 原題 | 日本語タイトル |
|---|---|---|
| 1曲目 | La vie en rose | バラ色の人生 |
| 2曲目 | Hymne à l'amour | 愛の讃歌 |
| 3曲目 | Non, je ne regrette rien | 水に流して |
この3曲は、いずれもフランスのシャンソン文化を代表する楽曲だ。
最初の「バラ色の人生」は、愛する人と過ごす幸福感や、世界が美しく見えるような心情を表現した名曲。演技の入り口にふさわしい、華やかな印象を持つ。
続く「愛の讃歌」は、プログラム全体の中心となる楽曲。愛する人への揺るぎない思いを歌い上げる壮大なシャンソンで、作品に深みを与える。
最後の「水に流して」は、過去を振り返りながらも、後悔せずに新しい人生へ踏み出す強い意志を感じさせる楽曲だ。
3曲を続けて聴くと、幸福、愛、そして過去を受け入れて前に進むという流れが浮かび上がる。
坂本の競技人生の最終章に重ねて考えると、非常に印象的な構成である。
ショートプログラムとの違いにも注目2025-26シーズンは、ショートプログラム(SP)にも象徴的な楽曲が採用されていた。
- SP:「Time To Say Goodbye」
- FS:「愛の讃歌」
ショートはサラ・ブライトマンとアンドレア・ボチェッリによる「Time To Say Goodbye」。振付師はブノワ・リショーだ。
一方、フリーはマリー=フランス・デュブレイユが担当した。
曲名だけを見ると、ショートが別れ、フリーが愛という対照的なテーマに感じられる。しかし、坂本本人はショートについても、単純な別れではなく、次の自分へ進むためのプログラムという意味を込めていた。
【原曲・歌手を解説】愛の讃歌はエディット・ピアフの代表曲
「坂本花織の愛の讃歌は誰が歌っているの?」という疑問に答えるには、原曲の歌手と、今回のプログラムに関連するカバー歌手を区別する必要がある。
中心となる人物は、フランスの伝説的シャンソン歌手、エディット・ピアフと、現代のフランスを代表する歌手パトリシア・カースだ。
エディット・ピアフとは?エディット・ピアフは、20世紀フランスの音楽史を代表する歌手である。
「愛の讃歌」「バラ色の人生」「水に流して」など、時代を超えて歌い継がれる作品と深く結びついている。
特に「愛の讃歌」は、1949年に作られた楽曲だ。作詞はエディット・ピアフ、作曲はマルグリット・モノー。フランス国立図書館の楽曲資料にも、この作者と作品の関係が記録されている。
パトリシア・カースはどんな歌手?パトリシア・カースは、シャンソンを現代的な歌唱表現で届けてきたフランスの歌手だ。
2012年には、エディット・ピアフの楽曲を歌い継ぐアルバム『Kaas chante Piaf』を発表している。
同アルバムには、今回のプログラムを構成する「Hymne à l'amour」「La vie en rose」「Non, je ne regrette rien」の3曲も収録されている。
ここで押さえたいのは、エディット・ピアフが原曲を代表する歌手であり、パトリシア・カースはその作品を歌い継いだ歌手であるという関係だ。
ISUの楽曲登録では両者の名前が演奏者として記載されている。単純にパトリシア・カースだけのオリジナル曲と理解するのは正確ではない。
3曲それぞれの背景- バラ色の人生:フランスを代表するシャンソンの名曲。ピアフの歌唱で広く知られる。
- 愛の讃歌:ピアフが作詞し、マルグリット・モノーが作曲した1949年の作品。
- 水に流して:エディット・ピアフの代表的な歌唱曲。作曲はシャルル・デュモン、作詞はミシェル・ヴォケール。
3曲にはそれぞれ異なる音楽的背景があるが、いずれもピアフの歌唱と結びついて世界中で親しまれてきた。
【選曲の理由】坂本花織が鈴木明子に憧れて12年間温めた曲
坂本花織が「愛の讃歌」を選んだ理由は、2014年のソチ五輪にさかのぼる。
当時、坂本が憧れていたフィギュアスケーターが鈴木明子だった。
は、2013-14シーズンのショートプログラムで「愛の讃歌」を使用した。
2014年ソチ五輪は、鈴木にとって現役最後のオリンピックだった。
当時のフジテレビや日本オリンピック委員会の競技資料にも、鈴木のSP使用曲として「愛の讃歌」が記録されている。振付はマッシモ・スカリが担当していた。
坂本は、この演技を見て強い印象を受けた。
2025年6月のweb Sportivaの取材で、坂本は選曲について次のように語っている。
「自分が引退するシーズンは絶対この曲を使いたい」
ソチ五輪で鈴木の演技を見たときから、自分も現役最後のシーズンにこの曲を使いたいと考えていたという。
そして2025年、実際に振付師へ希望を伝え、プログラムとして実現した。
なぜ引退シーズンに選んだのか坂本にとって「愛の讃歌」は、単なる憧れの選手へのオマージュではない。
自身も競技生活のなかでさまざまな葛藤や苦労を経験してきた。そうした歩みが、この楽曲の持つ強い感情と重なると感じていた。
2025年6月のインタビューでは、曲名を知っていた13歳の頃から、引退シーズンに使いたいという思いを持ち続けていたことが明らかになった。
つまり、今回の選曲は直前に思いついたものではなく、約12年にわたって温められてきた構想だったのである。
【振付師の狙い】マリー=フランス・デュブレイユが込めたスケートへの愛
は、坂本の2025-26シーズンのフリーを担当した振付師だ。
アイスダンスの世界選手権で2006年、2007年に銀メダルを獲得した実績を持ち、競技経験と芸術的な表現力の両方を備えている。
坂本とは2022年北京五輪後から継続して仕事をしてきた。共同通信の2026年4月のインタビューでも、坂本の表現スタイルを4年間にわたって発展させるプロジェクトに携わったことを振り返っている。
恋愛ではなく「スケート愛」を表現する今回の振付で特に興味深いのは、楽曲のテーマをそのまま恋愛として表現するのではないという点だ。
坂本は2025年6月の取材で、デュブレイユから、恋愛よりもスケートへの愛をテーマにしたほうが感情移入しやすいのではないかと提案されたことを明かしている。
その助言を受け、坂本自身も大好きなフィギュアスケートを表現することを意識した。
この解釈は、引退シーズンという背景を考えると非常に意味深い。
観客が「愛の讃歌」を聴いて連想するのは、一般的には恋人への愛や人生の愛情だろう。しかし坂本の場合、その愛情の対象を自分の競技人生、そして長年続けてきたスケートそのものに置き換えている。
そのため、3曲の構成も単なるシャンソンのメドレーではなく、スケートとともに歩んできた人生を表現する物語として受け取れる。
【歴代フリープログラム使用曲】シカゴ・Wild is the Windから愛の讃歌へ
坂本花織は、シーズンごとに異なるジャンルの楽曲を選んできた。
フジテレビの選手紹介に掲載されているプログラム記録をもとに、シニア時代のフリー使用曲を整理すると次のようになる。
| シーズン | フリープログラム使用曲 | 振付師 |
|---|---|---|
| 2015-16 | 映画『カラーパープル』 | マッシモ・スカリ |
| 2016-17 | 映画『カラーパープル』 | マッシモ・スカリ |
| 2017-18 | 映画『アメリ』 | ブノワ・リショー |
| 2018-19 | 映画『ピアノ・レッスン』 | ブノワ・リショー |
| 2019-20 | 映画『マトリックス』 | ブノワ・リショー |
| 2020-21 | 映画『マトリックス』 | ブノワ・リショー |
| 2021-22 | WOMAN | ブノワ・リショー |
| 2022-23 | Elastic Heart | マリー=フランス・デュブレイユ |
| 2023-24 | Wild is the Wind / Feeling Good | マリー=フランス・デュブレイユ |
| 2024-25 | シカゴ | マリー=フランス・デュブレイユ |
| 2025-26 | バラ色の人生 / 愛の讃歌 / 水に流して | マリー=フランス・デュブレイユ |
2024-25シーズンのフリーは、ミュージカル『シカゴ』を題材にしたプログラムだった。
華やかな舞台作品の世界観を取り入れた演技で、デュブレイユが振付を担当した。
坂本の力強いスケーティングと、ミュージカルらしい表現を組み合わせたプログラムである。
2023-24シーズン「Wild is the Wind / Feeling Good」2023-24シーズンは「Wild is the Wind」と「Feeling Good」の組み合わせ。
2024年の世界選手権で3連覇を達成した時期のプログラムでもあり、坂本の力強さと表現力を印象づけた作品だ。
歴代プログラムから見える変化歴代曲を並べると、映画音楽、ミュージカル、ポップス、シャンソンと、音楽の幅が広いことがわかる。
特に2022-23シーズン以降は、デュブレイユが継続してフリーの振付を担当している。
ここには、単にシーズンごとに新しい曲を選ぶだけでなく、坂本の持ち味を理解した振付師とともに、表現の幅を広げてきた過程が見える。
そして最後のシーズンでは、派手な舞台音楽や映画音楽から一転し、自分の人生やスケートへの思いを重ねられるシャンソンを選んだ。
この変化こそ、最終プログラムの大きな特徴といえる。
【2026年最新】愛の讃歌で迎えた最後の世界選手権と現役引退
2025-26シーズンは、坂本花織にとって現役最後のシーズンとなった。
2026年2月のミラノ・コルティナ五輪では、女子シングルで銀メダルを獲得。現役最後のオリンピックで、これまでの競技人生を象徴する演技を披露した。
最後の競技会は2026年3月の世界選手権坂本が最後の競技会として選んだのは、チェコ・プラハで開催された2026年世界選手権だった。
3月27日のフリースケーティングでは、五輪と同じ「愛の讃歌」を使用。
フリーで158.97点、ショートとの合計で238.28点を記録し、優勝を果たした。
これが坂本にとって世界選手権4度目の優勝。日本女子の同大会最多優勝記録を更新し、現役最後の競技会を最高の結果で締めくくった。神戸学院大学も卒業生の快挙として公式に発表している。
2026年5月13日に正式な引退会見所属先のシスメックスは、2026年5月13日に神戸市内で坂本の引退会見を開催した。
会見で坂本は、21年4カ月に及んだスケート人生を振り返り、今後は生まれ育った神戸で子どもたちにスケートの楽しさを伝えるコーチを目指す考えを示した。
現役選手としての活動は終わったが、スケートとの関わりは続いていく。
この経緯を踏まえると、「愛の讃歌」は単なる引退記念の選曲ではなかった。
憧れの鈴木明子から受け取った思い、自分自身が積み重ねた競技人生、そして次の世代へスケートを伝えていく未来。そのすべてが重なる作品だった。
【坂本花織のフリー曲】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:坂本花織の2025-26シーズンのフリー曲は何ですか?
A1:プログラム名は「愛の讃歌」です。実際には「バラ色の人生」「愛の讃歌」「水に流して」の3曲をつないだメドレー構成になっています。
Q2:坂本花織の愛の讃歌は誰が歌っていますか?
A2:原曲を代表する歌手はエディット・ピアフです。また、パトリシア・カースもピアフの楽曲をカバーしており、2012年のアルバム『Kaas chante Piaf』に今回の3曲が収録されています。
Q3:坂本花織の愛の讃歌の振付師は誰ですか?
A3:マリー=フランス・デュブレイユです。2025-26シーズンのフリーを担当し、恋愛ではなく坂本自身のスケートへの愛を表現する方向性を提案しました。
Q4:なぜ坂本花織は引退シーズンに愛の讃歌を選んだのですか?
A4:2014年ソチ五輪で、憧れの鈴木明子がショートプログラムで使用していたからです。坂本はその演技を見たときから、自分の引退シーズンにはこの曲を使いたいと考えていました。
Q5:坂本花織の最後の競技会はいつですか?
A5:2026年3月の世界選手権です。チェコ・プラハで開催された大会で優勝し、通算4度目の世界女王となりました。2026年5月13日に引退会見を行っています。
坂本花織の2025-26シーズンのフリーは、「バラ色の人生」「愛の讃歌」「水に流して」の3曲で構成された、特別なプログラムだった。
選曲の原点は、2014年ソチ五輪で鈴木明子が滑った「愛の讃歌」。約12年間温め続けた思いを、引退シーズンに実現させた。
振付師のマリー=フランス・デュブレイユが提案したテーマは、恋愛ではなくスケートへの愛。長年競技に打ち込んできた坂本だからこそ、自分の経験を重ねられる解釈だった。
そして2026年3月、最後の世界選手権で優勝。5月の引退会見を経て、競技者としての21年4カ月に幕を下ろした。
坂本花織の「愛の讃歌」は、別れを歌うためだけのプログラムではない。大好きなスケートと歩んだ人生を肯定し、次の世代へとつないでいくための作品だった。
その背景を知ってから映像を見返すと、3曲それぞれの意味や、最後の演技に込められた感情が、また違って見えてくるはずだ。