福島市の事故をきっかけに、改めて注目されたのが高齢ドライバーの免許更新制度だ。
日本では、年齢だけを理由に一律で運転免許を取り消す制度は採用されていない。その代わり、70歳以上には高齢者講習、75歳以上には認知機能検査などが設けられている。
70歳以上と75歳以上で異なる免許更新制度警察庁の制度説明によると、年齢によって必要な手続きは異なる。
| 年齢・条件 | 必要な手続き | 制度の目的 |
|---|---|---|
| 70歳以上 | 高齢者講習 | 運転適性や身体機能の変化を確認 |
| 75歳以上 | 認知機能検査 | 記憶力・判断力の状態を確認 |
| 75歳以上で一定の違反歴がある人 | 運転技能検査 | 実際の運転操作や安全確認能力を評価 |
| 認知症のおそれがあると判定された人 | 医師による診断 | 運転継続の適性を医学的に確認 |
70歳以上のドライバーは、免許更新時に高齢者講習を受講する必要がある。
講習では、座学や運転適性検査、実車指導などを通して、自分の運転能力や身体機能の変化を把握する。
75歳以上になると、これに加えて認知機能検査が必要になる。
警察庁によると、検査では主に次の2項目を確認する。
- 手がかり再生: イラストなどを記憶し、後から思い出す能力を確認する。
- 時間の見当識: 検査時点の年月日、曜日、時間を正しく把握できるか確認する。
検査結果は「認知症のおそれがある方」「認知症のおそれがない方」に区分される。
ただし、認知機能検査は医師による認知症の診断ではない。「認知症のおそれがある」と判定された場合に、医師の診断を受ける手続きにつながる仕組みだ。
つまり、検査結果だけで直ちに認知症と確定するわけではない。
75歳以上の運転技能検査は全員が対象なのかここは誤解されやすいポイントだ。
運転技能検査は、75歳以上の全ドライバーに一律で課されるものではない。
対象になるのは、免許更新時に一定の違反歴がある人だ。具体的には、更新前の一定期間に信号無視、速度超過、安全運転義務違反、横断歩行者等妨害などの対象違反をした人が該当する。
検査では実際に普通自動車を運転し、一時停止や信号通過などの課題を実施する。
警察庁の説明では、第一種免許の場合、100点満点からの減点方式で採点し、70点以上が合格基準となっている。不合格の場合は、免許を更新できない。更新期限まで繰り返し受検することは可能だ。
免許返納を判断する際に見逃せないサイン今回の福島市の事故では、車庫入れの際の接触や運転操作の違和感が事故前からあった。
高齢者本人や家族が運転継続を考える際には、年齢だけでなく、次のような変化を確認することが大切だ。
- 駐車時に壁や車止めに接触することが増えた。
- ブレーキやアクセルの操作に迷うことがある。
- 信号や標識の見落としが増えた。
- 車線変更や右左折で判断に時間がかかる。
- 同乗者が運転に不安を感じるようになった。
- 本人が以前より運転を怖がる、あるいは家族の注意を受け入れられなくなった。
これらは診断項目ではないが、運転の見直しを始めるきっかけになる。
自主返納は、運転経歴証明書の取得などにもつながる。重要なのは、事故を起こしてから返納するのではなく、運転能力が十分にあるうちから、本人と家族が移動手段を含めて話し合うことだ。
【福島県の移動支援】免許返納後の生活をどう守るのか

福島市の事故で浮き彫りになったのは、免許を返納することの難しさだ。
特に地方では、公共交通機関が都市部ほど充実していない地域もある。自宅からバス停まで距離がある、買い物先まで直通の交通手段がない、通院に時間がかかるといった問題がある。
今回の被告も、車を手放せば食事や外出が難しくなると考えていた。
このような事情を踏まえると、高齢者の事故対策には、免許制度だけでなく移動支援が欠かせない。
福島市のシルバーパスポート制度福島市では、75歳以上の市民などを対象に「シルバーパスポート制度」を実施している。
2025年4月1日に制度が変更され、路線バスと福島交通飯坂線に加え、タクシーの利用も助成対象になった。
2026年5月1日更新の福島市公式情報によると、年間の助成上限は合計2万円。利用者は次の2つから選択できる。
福島市シルバーパスポートの利用方法
パターン120,000円
バス・飯坂線
10,000円
タクシー
10,000円
パターン2
20,000円
バス・飯坂線
20,000円
タクシー助成は利用できない選択肢。
対象:福島市内に住民登録がある75歳以上の方など。申請が必要。残額の翌年度への繰り越しは不可。
出典:福島市公式ホームページ「シルバーパスポート制度」。
特に注目したいのは、免許を自主返納した人だけを対象にしているわけではない点だ。
福島市内に住民登録がある75歳以上の人などが対象であり、免許返納の有無にかかわらず申請できる。
これは、事故を起こす前から高齢者の外出を支援し、車に頼らない生活へ移行しやすくするという意味で重要な仕組みだ。
福島県の「運転卒業サポート」と自治体の支援福島県は、免許を自主返納した人の生活を支援する「運転卒業サポート」を実施している。
運転経歴証明書を協賛店で提示すると、店舗ごとに割引やサービスを受けられる制度だ。
例えば、協賛店舗によっては飲食代の割引、ドリンクサービス、ポイント優遇などがある。
加えて、県内の市町村では、それぞれ独自の支援策を設けている。
2026年4月現在の福島県警察の一覧には、次のような取り組みが掲載されている。
| 自治体 | 高齢者向けの主な支援 |
|---|---|
| 福島市 | 75歳以上を対象に年間最大2万円の公共交通助成 |
| 郡山市 | 75歳以上の自主返納者に5,000円分のバス・タクシー利用券 |
| 本宮市 | 対象者に地域公共交通共通乗車券などを最大5万円分交付 |
| 須賀川市 | 70歳以上の自主返納者などに1万円相当のバスカードまたはタクシー利用券 |
| 伊達市 | 65歳以上の対象者にデマンドタクシーの優待・割引 |
自治体によって年齢条件、申請期限、対象となる交通機関が異なるため、利用する際は居住する市町村の最新情報を確認する必要がある。
池袋暴走事故の遺族・松永拓也さんが示した視点高齢ドライバーの問題を考えるうえで、2019年の池袋暴走事故で妻の松永真菜さんと長女の莉子さんを亡くした松永拓也さんの発言も重要だ。
松永さんは、福島市の97歳死亡事故が起きた2022年12月、テレビユー福島の取材に応じ、高齢ドライバーによる事故をなくすための課題について語った。
松永さんが問題提起したのは、高齢者に運転を認める制度だけでなく、事故を防ぐための社会全体の責任だった。
さらに2024年5月、松永さんは池袋事故の加害者である飯塚幸三受刑者と初めて面会した。
その際、飯塚受刑者は高齢者やその家族に免許返納を早く考えるよう伝えてほしいという趣旨の話をし、自治体には高齢者への支援を求めたと松永さんが明かしている。
松永さん自身も、加害者・被害者をこれ以上生まないために、自治体による高齢者支援の必要性を訴えた。
この視点は、福島市の事故にも通じる。
免許返納を促すことだけでは、生活の足を失う高齢者の問題は解決しない。交通事故を防ぐためには、本人が安心して運転をやめられる環境を整える必要がある。
免許返納を進めるために必要な3つの条件今後の高齢者交通政策で重視すべきなのは、次の3点だ。
1.運転能力を客観的に評価すること
本人が「まだ運転できる」と考えていても、実際の操作能力が低下している可能性がある。高齢者講習や運転技能検査に加え、家族や医療関係者が異変を早期に把握する仕組みが必要だ。
2.返納後の交通手段を先に確保すること
免許を返納した翌日から通院や買い物ができなくなるようでは、本人が返納をためらうのも無理はない。バス、タクシー、デマンド交通、地域の送迎サービスなどを組み合わせる必要がある。
3.家族だけに責任を負わせないこと
今回の事故では、被告の長女が事故前から運転を心配していた。家族が異変に気づいても、離れて暮らしていたり、日常生活をすべて管理できなかったりする場合がある。
家族の説得だけに頼らず、自治体、警察、医療機関、交通事業者が連携して支援することが重要だ。
【福島97歳死亡事故のその後・現在】2026年時点で分かること
事故から約4年が経過した2026年11月現在、この事件について広く報道されている最大の司法上の節目は、2023年4月12日の福島地裁判決だ。
判決では波汐国芳被告に禁錮3年、執行猶予5年が言い渡された。
また、FNNの裁判報道では、事故後に被告が運転をやめたことが伝えられている。
一方、被告の現在の生活状況や、その後の個人的な近況については、広く確認できる継続的な報道は見当たらない。
この事故をめぐって、現在も考えるべきなのは、判決が出たことで問題が終わったわけではないということだ。
福島市ではシルバーパスポート制度が改定され、タクシー利用を含む高齢者の移動支援が進められている。福島県も運転卒業サポートを継続している。
つまり、事故後の社会的な課題は、運転を続けるか、やめるかという二択から、運転をやめても生活を維持できる地域づくりへと広がっている。
【福島市97歳死亡事故に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:福島市の97歳死亡事故はいつ起きましたか?
A1:2022年11月19日の午後5時前です。福島市内の市道で、97歳の男性が運転する軽乗用車が歩道に進入し、川村ひとみさん(当時42歳)が死亡、4人が負傷しました。
Q2:事故を起こした97歳の男性の名前は?
A2:波汐国芳(なみしお・くによし)被告です。2023年4月12日、福島地方裁判所から禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡されました。
Q3:福島97歳死亡事故の原因は何だったのですか?
A3:検察側はアクセルとブレーキの踏み間違いを原因として主張しました。被告自身も、ブレーキの代わりにアクセルを踏んでしまったと説明しています。
Q4:川村ひとみさんは何歳で亡くなったのですか?
A4:事故当時42歳でした。夫と2人の子どもがいた母親で、歩道を歩いていたところを車にはねられました。
Q5:97歳の運転者に認知症の診断はあったのですか?
A5:公判報道で確認できるのは、運転に必要な判断能力や運動能力の衰えについて裁判所が指摘したことです。認知症と診断されていたと確認できる公表情報はありません。認知機能の低下と認知症の診断は区別する必要があります。
Q6:75歳以上は全員、運転技能検査を受ける必要がありますか?
A6:いいえ。75歳以上であっても全員が対象ではありません。一定の違反歴がある人が免許更新時に運転技能検査を受け、合格する必要があります。一方、75歳以上には認知機能検査が義務付けられています。
Q7:福島市では免許返納後にどのような支援がありますか?
A7:福島市のシルバーパスポート制度では、75歳以上の対象者に年間最大2万円の公共交通利用助成があります。バス・飯坂線とタクシーを併用する方法、バス・飯坂線だけを利用する方法から選べます。自主返納の有無にかかわらず対象になる制度です。
福島市の97歳死亡事故は、2022年11月19日、波汐国芳被告が運転する軽乗用車が歩道を100メートル以上走行し、川村ひとみさんの命を奪った痛ましい事故だった。
2023年4月12日には福島地裁が禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。裁判では、アクセルとブレーキの踏み間違いだけでなく、事故以前からの車両損傷や運転能力の低下、免許返納をめぐる生活上の問題も明らかになった。
この事件から得られる教訓は、大きく3つある。
- 高齢者本人: 運転に不安や操作ミスが生じたら、年齢に関係なく運転能力を見直す。
- 家族: 運転の異変を見逃さず、早い段階から免許返納と代替交通について話し合う。
- 自治体・社会: 免許を返納しても通院や買い物に困らない移動環境を整備する。
高齢ドライバーによる交通事故を防ぐことは、単に高齢者から運転の自由を奪うことではない。
本人が安全に運転できるかを適切に判断し、運転を卒業しても安心して暮らせる選択肢を用意することだ。
川村ひとみさんの命が失われた事故を、単なる過去のニュースとして終わらせてはならない。被害者と遺族の思いを受け止め、免許制度と地域の交通インフラの両面から、同じ悲劇を繰り返さないための取り組みを続ける必要がある。