仮面ライダーの歴史を振り返ると、作品ごとに主演スーツアクターが交代する一方、複数のシリーズを長期間支えてきたベテランもいる。
その系譜を語るうえで欠かせないのが、富永研司、高岩成二、縄田雄哉、永徳らの存在だ。
平成シリーズの礎を築いた富永研司と高岩成二平成仮面ライダーを代表するスーツアクター。『アギト』から『ジオウ』まで、18作品で主人公ライダーを担当した。
平成シリーズ第1作『仮面ライダークウガ』で主人公ライダーを演じたのは富永研司だ。
その翌年の『仮面ライダーアギト』から主演ライダーを引き継いだのが高岩成二だった。
テレビ朝日の2019年の特集記事によると、高岩は平成仮面ライダー全20作品のうち18作品で主演を担当。『アギト』『龍騎』『555』『剣』『カブト』『電王』『キバ』『ディケイド』『W』『オーズ』『フォーゼ』『ウィザード』『鎧武』『ドライブ』『ゴースト』『エグゼイド』『ビルド』『ジオウ』が代表的な担当作品だ。
特に注目したいのは、作品ごとに異なる主人公の性格を身体表現で描き分けてきたこと。単に同じ動きを繰り返すのではなく、キャラクターに合わせて姿勢や歩き方、戦闘スタイルを変えていた。
なお、2021年10月には35年間在籍したJAEを退所し、その後はフリーランスとして活動している。
高岩成二から縄田雄哉へ――2019年の世代交代令和シリーズを代表するアクターの一人。『ゼロワン』で主演ライダーを引き継ぎ、『リバイス』『ギーツ』などにも参加している。
2019年の『仮面ライダーゼロワン』は、スーツアクターの歴史において大きな転換点となった。
高岩から縄田へ、主演ライダーの担当が引き継がれたためだ。
縄田は『仮面ライダーエグゼイド』で仮面ライダーゲンム、『仮面ライダージオウ』で仮面ライダーゲイツを担当していた。
テレビ朝日の公式インタビューでは、縄田自身がゼロワンの主演オファーを受けた際の喜びと不安を語っている。高岩の表現力を間近で見ていたからこそ、自分の技量で主役を務められるのかという葛藤もあったという。
その後も縄田は『リバイス』のリバイや、『ギーツ』のバッファなどを担当。『マイス』でも重要な複数のライダーを演じている。
令和シリーズで活躍する主なスーツアクター令和シリーズでは、主演ライダーを担当する人物が作品ごとに変わるだけでなく、複数のベテランが作品を横断して参加している。
代表的な担当例を整理すると、次のようになる。
※代表的な公表担当例。作品ごとに複数のスーツアクターが参加するため、各作品の担当者全員を示す表ではない。
この流れで注目したいのが、永徳のキャリアだ。
『仮面ライダー』シリーズでは、長年にわたって2号・3号ライダーなどの役を担当してきた永徳。2023年の『仮面ライダーガッチャード』では、初めてテレビシリーズの単独主演ライダーを担当した。
東映の制作発表では、20年来の悲願だった主演ライダーへの起用として紹介されている。
また、『仮面ライダーゼッツ』では新田健太がゼッツ、永徳がゼロを担当。新しい世代のアクターが主演に起用される一方、経験豊富なアクターが作品を支える構図が続いている。
【2026年最新】仮面ライダーマイスのスーツアクターと担当役一覧

2026年の最新作『』では、スーツアクターの起用方法に興味深い特徴がある。
同作は仮面ライダー生誕55周年の節目に登場した作品で、2026年9月6日にテレビ放送がスタート。十二支をモチーフにしたライダーたちが登場する。
主人公の音澄宙を秋谷郁甫が演じ、麻尾達臣役の安宅波颯や、ヴァンケン役の岩永丞威らが作品世界を構成する。
東映の公式サイトでは、10月11日放送の第6話に合わせて、追加スーツアクターの情報と制作の裏側が公開された。
2026年の注目スーツアクター4人
- 仮面ライダーリド
- 仮面ライダーヴァンケン
リドに続き、ヴァンケンも担当。若々しいリドと成熟したヴァンケンという異なる人物像を演じ分ける。
- 仮面ライダーマオウ
- 仮面ライダージャオ
- リュウズ
それぞれのキャラクターに合わせた身体表現を担当。ジャオの変身ポーズ制作にも中心的に関わった。
- 仮面ライダームトン
『仮面ライダーギーツ』の仮面ライダーロポなどを担当した経験を持つ。『ゼッツ』のTTFCスピンオフにも参加している。
- 仮面ライダーケイ
東映の公式制作秘話では、レギュラーキャラクターへの起用は初めてと紹介された新メンバー。
ここで混同しやすいのが、劇中のキャラクターを演じる俳優と、変身後の姿を演じるスーツアクターの違いだ。
『仮面ライダーマイス』の公式キャスト情報とスーツアクター情報を照らし合わせると、次のように整理できる。
| キャラクター | 変身前・劇中の出演者 | スーツアクター |
|---|---|---|
| マオウ | 東啓介 | 縄田雄哉 |
| ジャオ | 坪倉康晴 | 縄田雄哉 |
| リュウズ | 白熊寛嗣(声) | 縄田雄哉 |
| リド | 安宅波颯 | 永徳 |
| ヴァンケン | 岩永丞威 | 永徳 |
| ムトン | 長谷川かすみ | 宇佐見紗風 |
| ケイ | 西山蓮都 | 杉森功明 |
この表から分かるように、変身前の出演者と変身後のスーツアクターは別々の人物である。
例えばヴァンケンは、岩永丞威が人物としての演技を担当し、変身後の仮面ライダーは永徳が演じる。
同様に、リドは安宅波颯と永徳、ムトンは長谷川かすみと宇佐見紗風という組み合わせになる。
ただし、これはすべての仮面ライダー作品に共通する絶対的なルールではない。俳優本人がスーツを着て演じる場面や、スーツアクターと分担する作品もある。
なぜ永徳や縄田は複数キャラクターを兼任するのか?今回の『マイス』で最も興味深いのは、複数のライダーを同じスーツアクターが演じるという制作方針だ。
東映公式サイトの制作秘話では、アクション監督の藤田慧が考案した戦略として、その理由が説明されている。
十二支ライダーを全員別々のスーツアクターに担当させると、年間を通じた撮影スケジュールの調整が難しくなる。
スーツアクターはテレビシリーズ以外にも、映画のスタント、舞台、ヒーローショーなど、さまざまな仕事に携わる。そのため、人数を増やせば単純に撮影が効率化するとは限らない。
そこで『マイス』では、年間を通じて参加するアクターをある程度絞り、番組内でスケジュールを調整する方式を採用した。
この仕組みには、もう一つ大きなメリットがある。
持ち役が登場しない回でも、同じアクターが現場に参加することで、監督とのコミュニケーションを継続できるのだ。
加えて、同じキャラクターが複数登場するシーンでは、別のアクターが代わりに入ることもある。その際、オリジナルの担当者が現場にいれば、動きやキャラクターの精度を維持しやすい。
つまり、兼任は単なる人員不足への対応ではない。作品全体のアクションの統一感を高めるための制作上の選択でもある。
【制作の裏側】変身ポーズは俳優・監督・スーツアクターが共同で作る
仮面ライダーの魅力を語るうえで欠かせないのが、変身ポーズだ。
シリーズごとに異なるポーズが考案され、作品の印象を決定づける要素になっている。
しかし、そのポーズは変身前の俳優だけが考えているわけではない。
ヴァンケンの変身ポーズは4人で考案東映の第6話制作秘話によると、ヴァンケンの変身ポーズは次の4人がアクション練習の際に共同で考えた。
- 岩永丞威(ヴァンケン役)
- 葉山康一郎監督
- 藤田慧アクション監督
- 永徳(スーツアクター)
ヴァンケンは嗅覚に優れたキャラクターであるため、その特徴をポーズにも反映させている。
単に格好よく見える動きを作るだけでなく、キャラクターの能力や性格を一連の動作に落とし込んだのだ。
これは、スーツアクターがキャラクターの身体表現を担当するだけでなく、作品の演出そのものにも関わっていることを示す事例だ。
ジャオの変身ポーズは縄田雄哉が中心ジャオの変身ポーズも興味深い。
東映の公式制作秘話によると、縄田雄哉が中心となり、藤田慧アクション監督と一緒に考案した。
蛇をモチーフにしたジャオの特徴を表現するため、縄田は蛇の動きを取り入れ、長い尻尾の扱いにも工夫を加えている。
加えて、スタッフルームで足を椅子にぶつけながらポーズを作ったという制作エピソードまで紹介されている。
完成したポーズは、ジャオの妖美な雰囲気を表現するものになった。
このエピソードから見えてくるのは、変身ポーズが単なる振り付けではないということだ。
キャラクターの設定を理解し、身体の可動域や衣装の構造を考え、カメラに映ったときの美しさまで調整する。こうした作業の積み重ねが、視聴者の記憶に残るポーズにつながっている。
変身前後の人物像を一致させる演技変身ポーズだけでなく、普段の動きにも連携が必要になる。
JAE社長であり、長年アクション業界に携わってきた金田治は、週刊プレイボーイのインタビューで、現代のスーツアクターは変身前の俳優と話し合い、細かな癖を取り入れながら人物像を一致させていると説明している。
例えば、変身前の俳優が少し猫背で歩く人物なら、変身後もその雰囲気を残す。
怒りっぽい人物なら、戦闘中の構えや動作にその性格を反映する。
こうした細かな積み重ねによって、視聴者は変身前と変身後を同一人物として自然に受け止められる。
マスクで顔が隠れていても、演技は続いているのである。
【仕事内容と撮影現場】スーツアクターの仕事はアクションだけではない
スーツアクターという職業は、一般的には「ヒーローの着ぐるみを着て戦う人」と理解されがちだ。
しかし、実際の仕事内容はそれだけではない。
主な仕事内容1. アクション演技
パンチ、キック、ジャンプ、受け身、必殺技などを演じる。キャラクターの戦闘スタイルを理解し、敵との距離や動きのタイミングを合わせる必要がある。
2. キャラクターの芝居
立ち姿、歩き方、首の動き、手の動きなどを通じて感情を表現する。顔が見えないからこそ、身体全体で演技する技術が必要になる。
3. 変身ポーズや必殺技の制作協力
アクション監督や俳優、演出スタッフと相談し、キャラクターに合った動きを考案する。
4. スタントと安全管理
転倒、落下、格闘などの危険を伴う動きに対応する。相手役や撮影スタッフとの連携も欠かせない。
5. スーツの着脱とコンディション管理
マスクや防具の構造を理解し、撮影に適した状態を維持する。長時間の着用に耐える体力と集中力も必要だ。
マスクの視界は想像以上に狭いスーツアクターにとって大きな課題の一つが視界だ。
特撮作品では、アップ撮影用のマスクとアクション用のマスクを使い分ける場合がある。
アップ用は外見の美しさを優先するため、視界が狭くなることがある。一方、アクション用は動きやすさや視認性が考慮される。
2026年の『アギト—超能力戦争—』関連インタビューでも、スーツアクターの高田将司が、アップ用とアクション用のマスクで視界や呼吸のしやすさが異なることを説明している。
また、最近のスーツは小さな通気用の穴など、以前より改善された部分もあるという。
夏場の撮影は過酷なのか?この疑問については、高岩成二の2023年のインタビューが参考になる。
屋外の撮影では、直射日光や照明の熱、重い防具、激しい運動が重なる。
高岩は『仮面ライダー555』の撮影時に暑さで午前中から消耗した経験や、『仮面ライダードライブ』の撮影で暑さに耐えられず一時的に撮影を止めた経験を明かしている。
ただし、撮影現場では制作スタッフによる休憩や暑さへの対応も行われており、無理をしないという意識が共有されているとも語っている。
スーツアクターの仕事は、身体能力だけでなく、自分の体調を把握し、安全に演技を続ける判断力も求められる仕事なのだ。
【目指す人向け】仮面ライダーのスーツアクターになるには?
仮面ライダーのスーツアクターを目指す場合、代表的な進路の一つがジャパンアクションエンタープライズ(JAE)への所属だ。
俳優、スタントマン、アクションパフォーマーなどを育成・マネジメントする会社。旧称はジャパンアクションクラブ(JAC)。
JAEは千葉真一が設立したジャパンアクションクラブを前身とする組織で、仮面ライダーをはじめとする特撮作品に多くのアクターを送り出してきた。
JAE養成部で学べることJAEの公式養成部案内によると、入所には主催オーディションへの合格が必要だ。
オーディションでは基礎体力や演技力などを確認し、合格者は約1年間のカリキュラムに取り組む。
主な内容は次のとおり。
- マット運動
- 現代殺陣・時代殺陣
- 中国武術
- ジャズダンス
- 演技
- スタント基礎
- パルクール
- ロープワーク
- 乗馬
- スキューバダイビング
- 撮影現場研修
稽古は週4日を基本とし、1年間の成果を卒業公演で披露する仕組みになっている。
また、アクションや武道、体操の経験がなくても応募できると公式案内には記載されている。経験者だけが入所できる養成所ではない。
スーツアクターに向いている人の特徴実際に求められる能力を整理すると、次のようになる。
| 必要な能力 | 求められる理由 |
|---|---|
| 基礎体力 | 重い装備を着用して動くため |
| 身体表現力 | 顔を見せずに感情を伝えるため |
| 演技力 | 変身前後の人物像を一致させるため |
| 協調性 | 俳優・監督・スタッフとの連携が必要なため |
| 集中力 | 視界が限られた状態で安全に動くため |
| 継続力 | 反復練習や長期間の役作りが必要なため |
特に見落とされがちなのが演技力だ。
JAE社長の金田治は、スーツアクターはあくまで俳優であり、アクションが上手なだけでは務まらないという考えを示している。
これは、仮面ライダーのスーツアクターという仕事を理解するうえで非常に要点だ。
運動神経の良さだけではなく、身体で物語を伝える力が必要なのである。
【プロの結論】仮面ライダーのスーツアクターを理解する3つの視点
ここまでの歴史と制作背景から、スーツアクターを理解するうえで押さえておきたい要点は3つある。
第一に、スーツアクターは変身後のキャラクターを演じる俳優である。
スタントだけを担当する存在ではない。キャラクターの性格や感情、物語上の立ち位置を理解し、全身の動きで表現する。
第二に、主演の交代はシリーズの演技表現が受け継がれる過程でもある。
高岩成二から縄田雄哉への交代は、単なる担当者変更ではなかった。高岩が築いた表現の蓄積を受け継ぎながら、縄田が新しいヒーロー像を作り上げてきた。
永徳が『ガッチャード』で初の単独主演を担当したことも、長年のキャリアの転換点として見逃せない。
第三に、2026年の『マイス』はスーツアクターの制作参加を知るうえで興味深い作品である。
複数役の兼任、俳優とアクション監督との変身ポーズの共同制作、別のアクターが代役に入る際の演技の引き継ぎなど、チームとして作品を作る仕組みが公式制作秘話から見えてくる。
仮面ライダーのアクションを評価するときは、単に「動きが格好いいか」だけではなく、キャラクターの性格が動きに反映されているかという視点を持つと、作品の見え方が変わるはずだ。
【仮面ライダーのスーツアクター】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:仮面ライダーのスーツアクターで最も有名なのは誰ですか?
A1:代表的な人物は高岩成二です。平成仮面ライダー全20作品のうち18作品で主演ライダーを担当し、「ミスター平成仮面ライダー」と呼ばれています。
Q2:高岩成二が担当した仮面ライダー作品は何ですか?
A2:『アギト』『龍騎』『555』『剣』『カブト』『電王』『キバ』『ディケイド』『W』『オーズ』『フォーゼ』『ウィザード』『鎧武』『ドライブ』『ゴースト』『エグゼイド』『ビルド』『ジオウ』の18作品です。
Q3:2026年の仮面ライダーマイスのスーツアクターは誰ですか?
A3:東映公式制作秘話で、縄田雄哉がマオウ・ジャオ・リュウズ、永徳がリド・ヴァンケン、宇佐見紗風がムトン、杉森功明がケイを担当すると紹介されています。
Q4:永徳は仮面ライダーリドとヴァンケンの両方を演じているのですか?
A4:はい。東映公式サイトで両役の担当が明らかにされています。リドに続いてヴァンケンも担当し、異なるキャラクターのアクションを表現しています。
Q5:変身前の俳優とスーツアクターは別人ですか?
A5:別人が担当するケースが多いものの、必ずしもそうとは限りません。作品や撮影シーンによって俳優自身がスーツを着る場合や、両者が分担する場合もあります。
Q6:スーツアクターになるには運動神経が必要ですか?
A6:基礎体力や身体能力は重要ですが、それだけでは不十分です。演技力、身体表現、協調性も必要です。JAEでは演技や殺陣、スタントなどを学ぶ養成課程を設けています。
Q7:同じスーツアクターが複数のライダーを担当するのはなぜですか?
A7:撮影スケジュールの調整や年間を通じたアクターの確保、キャラクター表現の統一などが理由です。『マイス』では、複数役の兼任を積極的に取り入れています。
仮面ライダーのスーツアクターは、1971年のシリーズ誕生から続くヒーローの歴史を、身体表現によって支えてきた存在だ。
平成シリーズでは高岩成二が18作品の主演を務め、2019年の『ゼロワン』から縄田雄哉へと主演のバトンが渡された。その後も浅井宏輔、永徳、新田健太らが新しいヒーロー像を作り上げている。
そして2026年の『仮面ライダーマイス』では、縄田、永徳、宇佐見紗風、杉森功明らが複数のキャラクターを担当。変身ポーズの共同制作や、アクションの品質を維持するための兼任体制も明らかになった。
変身前の俳優が物語に感情を吹き込み、スーツアクターが変身後の身体にその感情を引き継ぐ。この二つの演技が一つにつながったとき、仮面ライダーというヒーローは完成する。
次に仮面ライダーを見るときは、必殺技の瞬間だけでなく、変身直後の立ち姿や歩き方、敵と対峙したときの構えにも注目してほしい。その一つひとつに、スーツアクターたちが積み重ねてきた技術と表現が込められている。